2016/05/12 第3回 河島徳基氏(RIGHT STUFF) 『1を2ではない、0を1だ!スポーツ業界の10年』(後編)
理事長の小村をホスト役とした企画・「対談すごトーク」。第3回目となるゲストは、株式会社RIGHT STUFF取締役の河島徳基さんです。
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■1を2にする人ではなく、0を1にできる人
小村:河島さんがやられているライトスタッフの「SPORTS JOB NETWORK」には何名くらいの会員がいらっしゃり、過去スポーツ業界に何名くらい入れられてきたのですか。
河島:会員数は2万強くらいです。私と接点があってスポーツ業界に入っていった人は約140名はいると思います。昔、つながりあった人から決まりましたという連絡は月に1件くらいあります。
小村:NPO法人スポーツ業界おしごとラボは教育がメインですが、河島さんの会社は厚生労働大臣認可の紹介業ですよね。
河島:そうです。企業からの依頼があった人を紹介する会社です。今は1か月に1人ですが、中期的には2人入れたいですね。その方が経営的には安定します。
小村:そもそもスポーツ業界の会社自体が紹介人材に対してキックバックできる会社は実際のところ多いのですか。
河島:最近けっこう増えてきました。そこも含めて、人材を広く見とかないといけない。自分のHPや知り合いだけでは限界があるよねということで、選択肢のひとつとして弊社を活用してくれる会社は非常に多いです。弊社では紹介業の他に求人広告・ネット広告での収入もあります。求人広告の場合は応募先がウチではないのですが、そこから派生して紹介もいただけるようになるので地道にやっています。決まっている人材会社と連携をしている球団もありますが、弊社としてはスポーツ業界の全ての求人情報を一括で扱いたい気持ちです。
小村:企業から紹介料をいただくということは、それ相応の人材や即戦力になりうる人材が求められますよね。
河島:その通りです。新卒はなかなか厳しいところもまだありますが、最近はミーハー的な意識でスポーツ業界に行きたいという人は少なく、スポーツ業界を受ける人の意識が高くなりました。面接で伝えていたことを書いた『スポーツ業界の歩き方』(ぱる出版)という本は、ミーハー的な人の対策として出した趣旨もあります。
小村:どういう人材にスポーツ業界にチャレンジしてもらいたいですか。
河島:求めている人材像は何かできる可能性がありそうな人。言われたことをできるだけの人はもういらない。言われたことは何でもできますという人は重要ですが給与が払いきれない。「1を2にする人ではなく、0を1にできる人」ですね。
小村:なるほど、新しい事柄を生み出せる人、言われなくても自ら動ける人ですね。
河島:そうです。それと、社会に対してスポーツを使って何をするのかの意識ができる人ですね。スポーツだけでは発展性がないとみんな思っています。社会に対して価値を提供していかないとお金が入ってこないからです。異業種からの転職者で期待されているのはそういうところであったりもします。
小村:何年か前はジェネラリストな人が求められている風潮もありましたがいかがですか。
河島:最近は、ピンポイントの業務ができるスペシャリストを求む声も増えてきています。先日、プロ野球球団の求人ではECサイト運営者を求めていました。
小村:スポーツ業界を目指すのであれば、候補者たちに真っ先に改めてもらいたいスタンスはありますか?
河島:弊社は仕事を探す人を紹介する会社ですから、仕事を探している人が多くきます。しかし、厳しい言い方になるのですが、スポーツ業界へは仕事を探すスタンスだとダメだと思います。
小村:求職している人ということですか。職探しでスポーツのカテゴリを見ている人はよくないということでしょうか。
河島:そうですね。そういうスタンスじゃないんですね。やりたいことを実現させるための手段のひとつであり、職ではないんですね。それが結果的に職にはなるのですが、職そのものを求めている人がいますね。
小村:それはありますね。例えばプロ選手でいえば、お金がお金がじゃなくて、まずはこれで勝負がしたいという気持ちから入り、それが後からお金がついてくるという。裏方もそうであれということですかね。
河島:本来は、スポーツ業界が職を提供しなければいけないのです。そうあるべきだと。しかし、まだ10年しか経っていないので、そういう段階の職種・業界ではないということを理解した上でチャレンジしないといけません。職探しという感覚で来てしまうと、入れたとしても長続きはできないと思うのです。
小村:河島さんが今後スポーツ業界に臨むことはありますか。
河島:究極的ですが複数スポーツ(シーズン制で取り組めるスポーツ)が当たり前にできる環境になってもらいたいと思っています。これから人口が減少し、子供たちが減り、競技人口が絶対に減っていきます。マーケット自体シュリンクしていくわけです。そうなった時に何をすべきか。人口が減る中で競技人口を増やす唯一の方法は1人の子に複数のスポーツをやらせることです。すごく単純な話で、1人の子が4つのスポーツをやればシューズメーカーは4倍売れるわけです。どこかで複数スポーツをやらせていく環境づくり。選手や子供たちを取り合うのではなく、みんなで育てていく。そのためにはパラダイムシフトが大事で、それは試合に出ることが重要。結局、補欠というほぼ日本にしかない補欠の美徳。それは教育の観点から補欠の美徳を染み込ませたと思うけど、それを少しずつ解除しつつ、何のためにみんながスポーツをやるのかと言ったらプレーです。プレーは遊びです。プレーは教育ではない。結果的に教育的要素はあると思います。チームワークとかね。忍耐は試合中に起こる忍耐ね。教育的要素は試合の中に詰まっているわけです。その部分にもう少しシフトしていかない限り、スポーツの広まりはないと思っているのです。
小村:河島さんがアメリカで体験した複数スポーツですね。そのような様々な競技に取り組めることができる環境を増やしていくことが大事であるということですね。
河島:複数スポーツの場合は、練習よりも試合を主として展開しているわけです。小さい時は全然有りだと思っています。でないと、スポーツは面白かったとか、やっていて良かったと思えなくなってしまうと思います。単純に誰もがやりたいスポーツのはずが、その環境に順応できずに嫌になり、飛び出してしまっている子がいるのがもったいないと思います。 99.5%の人がプロになれない原則があって、これは変えがたいことです。マーケットとしてどっちが広いのかといえば99.5%の人の方が広いので、その人たちを取り逃さないようにスポーツ市場の中に入れておくシステムが必要だと思います。
小村:そうですよね。最初はみんなスポーツを通して楽しみたい、楽しいし興味があるから始めるというのがスタートだったと思います。
河島:楽しいところに人は集まってきます。日本のスポーツはきついイメージが強いような気がします。鍛錬とか。例えば、何で健康に良いとわかっているのにスポーツをしていない人が多いのだろうか。いろいろなところでスポーツは健康に良いと言われつつも実践している人は少ない。それはなぜかというと、時間がないという理由はあるけど、その中に「苦しそう」もあるからだと思います。それが「楽しそう」が強ければ人は来ると思うのです。物事が発展する中で「楽しそう」が重要です。
小村:確かにどこの分野でも人が集まってくる場所は楽しいところですからね。スポーツそのものが楽しくないと人は集まってきませんね。
河島:楽しさをもっともっと個々人が追求し外に出していくことが一番やらねばいけないことじゃないかなと思うのです。特にスポーツ業界の人に言いたいです。スポーツ業界で働いている人の中では、「何でスポーツをやらないのか」なんて考えている人はあんまりいないと思っているんですよ。やらない理由は絶対あって、そのうちのひとつがキツイというスポーツの負のイメージがあります。そのような負のイメージをなくしていくのが第一優先です。
小村:教育的要素としてのスポーツも多いと思いますが、その点はいかがでしょうか。
河島:教育的要素があることは間違いないけど、それは何となく副産物ですね。楽しさの中に教育的要素が入ってきてもらいたい。全体的にやっぱり、とにかく楽しいということの副産物としていろんなものがついてくるようにしたい。こっちだけの研究だけでもダメだし、教育だけでもダメだし、町おこしの価値だけを求めてもダメだし。楽しくて人が集まってきているから、だから健康なんですとか、いっぱい集まっているから町おこしできるんですよとか、いっぱい集まってきているからビジネスになるんですよとか。
小村:楽しさというのは感情的だと思いますが、そういうのが先にあって健康とかいろいろなものがついてくることですよね。選手もお金のためとかプロになるためが先ではなく、その競技に対する気持ち。スポーツ業界を目指している人も、ただ就職探しではなく何でこれをやりたいのかという気持ちがあって初めていろいろなものがついてくるということですよね。
河島:日本は「楽しい」というのが抑制されているように感じます。楽しみ方を知らないのです。応援の仕方も強制されている感じがする。それをどう直すのかは思いつきませんが、歯を見せるなのような戦前戦中からの名残な兵隊向けのコンテンツ教育は廃絶していきたいですね。そこを変えないとビジネスにならないと思うからです。もしくは、ビジネス化することでそこが変わっていく要因になるかもしれません。勝っても負けても楽しければ良い。勝利至上主義を否定するのではなく、頑張って勝とうとするでいいじゃないかと。そういうところから突き詰めていかないと変われないと思うのです。
小村:哲学的になってきてしまいましたが、最後にスポーツ業界を目指している方々へのメッセージをいただいてもいいですか。
河島:スポーツ業界は問題点がいっぱいあると思いますし、まだまだ産業として発展していない状況です。その中で、どういう風にスポーツ産業を大きくしていくかというところが大きな命題になっています。まだまだ可能性が大きい。今後の社会にとっても非常に可能性がある産業だと思いますので、どんどん飛び込んでいただければと思います。
<了>
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◆プロフィール◆
河島徳基(かわしま・のりもと)
株式会社RIGHT STUFF 取締役。学習院大学卒業後、アメリカ・ウィスコンシン州のUniversity of Wisconsin La Crossのスポーツ科学大学院へ。ストレングス&コンディショニングコーチ専攻。カリフォルニア州のThe Riekes Centerにてアスリートにトレーニングを教える仕事に従事後、パーソナルトレーナーを経て、阪神タイガースで通訳や営業に携わる。2005年スポーツ業界に特化した、人材紹介の会社「RIGHT STUFF」を設立。「SPORTS JOB NETWORK」(https://sjn.link/)にてスポーツ業界への人材紹介ビジネスを展開。著書に『スポーツ業界の歩き方』(ぱる出版)。
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