2016/05/11 第3回 河島徳基氏(RIGHT STUFF) 『1を2ではない、0を1だ!スポーツ業界の10年』(中編)

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理事長の小村をホスト役とした企画・「対談すごトーク」。第3回目となるゲストは、株式会社RIGHT STUFF取締役の河島徳基さんです。
[前編]はこちら から

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■アメリカンドリーム的なシステムが必要

小村:スポーツビジネス・スポーツマネジメントが注目され、スポーツ業界に入りたいという若者が増えたのもここ10年くらいだと思いますが、この10年の間もスポーツ業界は移り変わっていったと思います。流れを簡単にご教示いただけますか。

河島:簡単な流れを説明しますと、2002年に日韓ワールドカップが終わって、日韓W杯招致に携わった方々がスポーツビジネス・スポーツマネジメントを日本でもやろうというか、やらないといけない、教えていかねばいけないという風潮になってきました。スポーツマーケティングビジネス、放映権ビジネス、スポンサービジネスの重要性が言われ始め、欧州クラブの権利を何十億で買ってきてそれを日本で販売するという会社も出てきました。それは大きなお金が動くので、傍から見るとバブリーなスポーツビジネスと見えてハデでした。当初はバブリーなスポーツビジネスと見えていたところもあり、憧れのように見られていましたね。ところが、2008年にリーマン・ショックがあり、そういうビジネスはなかなかできなくなりました。この時期に、プロ野球の球団経営とパ・リーグの経営改革が始まり、地域に根差したbjリーグ、野球の独立リーグ、Fリーグの誕生、2013年からJリーグクラブライセンス制度、J3の誕生など全国の地方都市で3億円ビジネスができ始め、地に足を着けた事業化が展開されてきました。このようにスポーツビジネスがあちこちででき始めたのが、ここ5年くらいの流れですね。

小村:事業化することに対する貪欲さというのが、各協会やチームやリーグに見られるようになりました。事業を展開しなければならないという意識付けが相当変わりましたね。それに伴って言われるようになったのが「人材」です。大学や専門学校などでスポーツマネジメント学部や講座が乱立しました。最近はJリーグが自ら大学と連携し経営者を育てるというプログラムも立ち上がってきました。

河島:そうなんですね。でも、そこで言われるのは、やっぱり、お金を払わないと良い人材はこないということですね。もっとスポーツビジネスが活性化してそれなりの対価を支払っていかねばならないと。ただ、多少なりとも面白い人材が少しずつ入ってきていて、少しずつ微妙にスポーツ界が成長していっているという途上ですね。これがこの10年の流れですね。

小村:人材育成では2008年くらいからスポーツビジネスのハデさをウリに学校が起ち上がってきました。学校経営的には入学者が多くビジネスには良いと思いますが、出口がなかなか確保できずにスポーツ業界志望者が飽和してしまっています。

河島:今後は大学に関しては淘汰されていくと思いますね。学生の絶対数的な問題からの学生確保、教えられる講師陣の問題、そして卒業しても働く場所がないという問題ですね。なによりも、多くの学生や社会人を含め、スポーツビジネスは簡単じゃないぞと広がり始めてきています。良い面はみんな理解し始めたということですが、悪い面は夢がないということですね。そこにお金や面白味がないと良い人材は入ってこないわけです。スポーツ業界サイドからしたら、夢があり、面白く、稼げるという側面も見せていかねばならないと思うのです。

小村:確かにその通りですね。気持ちだけでは生活していけません。スポーツ業界に行けるようにうたっている学校の先生ですら、スポーツ業界をお勧めしなくなってきています。しかし、この悪循環を脱するためにも、今後のスポーツ業界で期待することは何でしょうか。

河島:一昨年末、某J1チームが営業職の求人を出したのですが、月額15万円なんですね。それでも初日に400人のエントリーがあったというのです。それは否定しないのですが、ここ最近良いなと思ったのは、そういう求人がネット上で叩かれ始めてきているんですね。今までは球団の求人が出ると珍しいので中身は後回しで応募しようという感じだったのが、最近はこんな給料じゃ良い人材が集まるわけないじゃんと批判されるコメントが出るようになった。今は景気が悪いわけではないので、今働いているところを辞める動機がない人が多い状況です。そういう人たちがスポーツ業界へ転職をしたいと踏み切らせる施策をスポーツ業界側も打って出ないと、単にもうチームの看板だけでは良い人材は集まらないということに気付き始めてきていると思います。それを改革していくことをしなければならない。今年の秋から始まるBリーグ、特に今のbjリーグの社長は40代前半の人が多いので、今後大きく変わっていくのではないかと期待しています。

小村:雇用面のところですよね。経営をちゃんとしないとその人を雇えないわけで、好循環を作り出すために人材に投資をしなければならない。そう考えると、親会社ありきのチームか、独立採算型でチーム経営を考えているチームかで差は出てきますね。

河島:J3のあるチームが、J1のチームよりも給料を出しているケースもありますからね。親会社的な考えではないチームがBリーグ(bjリーグ)には非常に多いという点が、将来希望があるような気がします。親会社はもちろん困ったときにはお金を出してくれる良さはありますが、それありきだと厳しい。例えば、ラグビーは100%実業団チームです。良い面は年間予算5億円というのがあり、何もしなくても親会社が出してくれます。親会社から確実にお金が入ってくる仕組みは素晴らしいのですが、それは親会社が儲かっている時は素晴らしい話です。親会社の経営が悪くなるとチームは切り捨てられてしまうのです。

小村:日本はもともと実業団スポーツとして歩んできましたが、変革の時期にきているということですね。

河島:今までの実業団スポーツの歴史を見てみると、どこかの企業が景気が悪くなり脱退すると他の景気が良い企業が入ってくる。60年代は鉄鋼や繊維、80年代は電機や金融、2000年代はIT、その時代背景で強い産業の企業が入ってきてくれたものの、その企業がない時代はチームがなくなります。ファンを育てるという観点からみると、企業側はファンを育てようとは思っていないわけで、極端な話、観客ゼロでも成り立つわけです。難点としては選手とファンが育たないのと、一端ダメになったら終わってしまうということ。スポーツ側から見るとファンを育てなければならない。100年続く仕組みを作らないといけないと考えると、企業スポーツのあり方は見直さねばならないという時期にきているのです。

小村:Jリーグが掲げている100年構想ですね。河島さん的には企業スポーツはなくして、地域密着型のプロ化にしていくべきとお考えですか。

河島:10年前の時はプロ化した方が良いと考えていましたが、この10年の歩みをみていくと、そう思いつつも、正直企業スポーツも悪くないなと思うところもあるのですよね。何だかんだ言いながらお金を持っていますからね。難しいところですね。もし日本が実業団スポーツをやっていなければ、日本はオリンピックで金メダルはひとつも取れなかったと思いますよ。今まで積み上げた金メダルのほとんどは企業が払ってくれたお金のおかげで取れたようなものですからね。

小村:企業スポーツかプロ化かの過渡期ですね。でも融合はできないものでしょうか。

河島:私も日本らしい融合体が良いと感じますね。スポーツビジネスの考え方が出てきたのはここ10年なので、そういう意味では満足はしていないですが、確実に変わってきていますからね。どういう風に企業スポーツと地域スポーツの融合を目指すか、融合体を示すことができれば本来は良いような気がしますね。というようなことを言うと、ビッグクラブは必要か必要じゃないかという議論が出ますね。私はビッグクラブを作った方が良いと思っています。そこを線引きして、ビッククラブはビッグ企業が支えて世界に出ていく。もちろん地域密着もする。地域クラブが50年後にはビッグクラブと競っているというのが理想ではあると思います。現状ではトップに企業チームも入れちゃって、ガンガンやった方がいいんじゃないかと思ったりはしますが、それを善しとしない人たちもいるのもわかります。地に足を着けなければいけないのは当然ですが、とは言え夢がないといけません。その人たちが目指すべきものを示していくチームもすごく必要です。必ずしも上と下が開くことが悪いことじゃないような気がしていて、それを悪とする人もいますが、全体最適はどこなのか。開くのも全体最適かもしれないですしね。難しい問題ですね。

小村:上も下も活性化し、選手も潤うことが理想でしょうか。

河島:選手の話をさせてもらうと、稼げる人は稼ぐべきで、稼げない選手もいてもいいと思うのですよ。格差の話になりますが、活躍したらいくらという話だと思います。シーズン1試合も出ていなかったり、1秒もプレーしていない選手はお金をもらう必要はないと思うのですよね。

小村:契約金がいくらとか、試合にも出ていない新人選手が年俸いくらで契約というのではなく、逆という考えでしょうか。

河島:アメリカが良いというわけでもないのですが、若い子に対して言うと、例えばアメリカのマイナーリーグに入ると、週給20ドルでプレーしているのですよ。シーズン3か月。シーズン中だけ1週間2000円でプレーしている人が大多数いるわけです。その中で、お前イイネと一人、二人が更に上に行くわけです。他の人たちは辞めていくわけですが、その段階ではその人たちには他に仕事ができるじゃないですか。だけど、最初に入った時に1500万円とか出していたら、辞めた後に普通の仕事ができないですよね。若い人の給料が低いと魅力的なリーグじゃなくなってしまうという人がいるのですが、私はそうではなくて、入る時は厳しくても、活躍できたら何十億もらえる世界の方が良いのではないかと思うのです。このような世界のほうが、入ったら1500万円もらえる優遇された世界よりも結果的にその人の人生にとってプラスになるのではないかと思う。メジャー契約を勝ち取ることができて初めて大きな金額を手にすることができる。

小村:日本はアマチュアとプロの線引きがしっかり引かれてしまっており、狭き門のドラフトやトライアウトで選ばれなければプロの試合に出ることはできません。しかし、アメリカはドラフトも有り特別な選手は別でしょうが、ルーキーリーグや誰もがチャレンジできる門戸が開いていて、そこで活躍すれば上のステップに上がることができ、それがしっかりとしたピラミッドになっています。

河島:それがアメリカンドリームですね。入れればお金がもらえるのではなくて、活躍できたらお金がもらえる世界が、日本と違うところです。少ない金額しかもらっていなければまた気持ちも違うだろうし、辞めたとしてももう一回這い上がれるチャンスが逆にあると思うのですよ。先に1500万円とか渡してしまうと、逆にその子たちの未来を奪ってしまっているような気がしてしまいます。見させちゃいけない夢もあったりして、逆にアメリカンドリーム的なところを見させてあげないと。

小村:入口が手厚く、しかしそれは投資されていることであり、それがプレッシャーとなり終わってしまう選手も多くいます。河島さんはセカンドキャリアに関してはどうお考えですか。

河島:実はスポーツの価値を高めるためにも早めに選手に印籠を渡してあげた方が良いと思っています。なぜかというと、その選手たちが社会で活躍した方がよりスポーツの価値を高められるからです。その選手たちが社会で活躍しなかった時はスポーツの価値を落としてしまうこともあります。引退した選手が犯罪に手を染めると、スポーツをやらせても顛末としてそういうことになってしまうのは問題です。もちろん知名度もあり活躍している選手のことではなく、30代半ばで一軍と二軍を行ったり来たりしていたり、昔の杵柄でその選手を目玉として下部リーグが雇うのはよい傾向ではないような気がします。指導者や球団に残れる選手は一握りですから、セカンドキャリアが遅くなればなるほど、外の世界の勉強も遅くなります。

小村:スポーツビジネスの未来はどうお考えですか。

河島:テクノロジーとか、社会問題解決といえば聞こえはいいですが、社会が求めていることを何かスポーツが提供できていける可能性がすごくあると思います。「超人スポーツ」が注目されてきていますし、このことは既に気づいている人たちがたくさん出てきていますので、幅広い範囲で市場自体はすごく膨らんでいくと思います。

小村:多くの様々な業界を結びつけることができるのがスポーツビジネスの魅力ですからね。次にスポーツ業界が求める人材像についてお聞きしていきたいと思います。
(⇒[後編]へ続く)
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◆プロフィール◆
河島徳基(かわしま・のりもと)
株式会社RIGHT STUFF 取締役。学習院大学卒業後、アメリカ・ウィスコンシン州のUniversity of Wisconsin La Crossのスポーツ科学大学院へ。ストレングス&コンディショニングコーチ専攻。カリフォルニア州のThe Riekes Centerにてアスリートにトレーニングを教える仕事に従事後、パーソナルトレーナーを経て、阪神タイガースで通訳や営業に携わる。2005年スポーツ業界に特化した、人材紹介の会社「RIGHT STUFF」を設立。「SPORTS JOB NETWORK」(https://sjn.link/)にてスポーツ業界への人材紹介ビジネスを展開。著書に『スポーツ業界の歩き方』(ぱる出版)。

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