2016/07/21 第12回二見一輝氏(バルドラール浦安テルセーロ監督)&三澤敏氏(香川オリーブガイナーズ元フロント)『フットサル界・野球独立リーグの課題と展望』(前編)
理事長の小村をホスト役とした企画「対談すごトーク」。今回のゲストは、バルドラール浦安テルセーロ監督の二見一輝さんと三澤敏さん(香川オリーブガイナーズ元フロント)です。
■チーム入りの動機と仕事内容
小村:本日は教え子が二人お越しくださいました。2010年前後の教え子で現在はFリーグのバルドラール浦安テルセーロ監督の二見一輝さんと、2008年前後の教え子で四国アイランドリーグの香川オリーブガイナーズでフロントを務めていた三澤敏さんです。三澤さんは、今はIT関連のお仕事へ転職されましたが、野球の独立リーグのスタッフ経験談をお聞かせください。よろしくお願いします。まずは三澤さんからお聞きします。私の下で勉強をしていた当時は町田ゼルビアのボランティアスタッフなどを行っていたと思います。一転、四国アイランドリーグの香川オリーブガイナーズに入社に至った動機などを教えてください。
三澤:四国アイランドリーグの香川オリーブガイナーズに入社をしたのは2011年の5月ですので、小村さんの下を巣立って2年の間が空いていますが、その間も自分なりに色々とスポーツ業界入りを模索し活動をしていました。たまたま独立リーグのチームの求人募集があり、問い合わせをしてみたところ、香川の球団でした。香川県は遠いけどもどうしようかと思いましたが、とりあえず受けるだけ受けてみようとチャレンジしました。今でも覚えていますが、2011年3月12日が面接の日だったのです。当時は別の仕事をしていましたので11日の金曜日に仕事を終えた後、翌日の土曜日に香川県に行き面接をするという流れを予定していました。皆さんご存知の通り、2011年3月11日は東日本大震災です。交通網がマヒしていました。東京から香川に行くのは難しいかもしれないと思い球団に電話を入れたところ、「来れたら来て」と軽く言われました(笑) 12日の朝、交通網の不安を抱きながら新横浜駅まで行ったところ、奇跡的に新幹線が動いており、香川県に行けてしまい、面接が受けることができてしまったのです。そして採用されたのです。
小村:東日本大震災の次の日に決まったんだね。よくあの混乱時に行けたね。これも縁だったのかね。
三澤:行くことができ面接もスムーズで採用もいただけましたが、実は採用をいただいてからが葛藤でした。やりたい気持ちはあり、とても嬉しい反面、当時26歳でIT系の企業に勤め安定した給料をもらっていたため、給料が下がってしまう現実との葛藤です。給料が下がってまでスポーツの仕事をやるのか、今のまま安定した給料をもらい続けていくか。本当に迷いました。そこで思ったのが、あれほど行きたかった球団の仕事をもし行かなかった場合、40歳になったら後悔すると思いました。40歳、50歳になった時に、あの時球団で仕事をするという夢をやっておけば良かったと思うのであれば、給料が下がっても香川県に行こうと決意したのです。
小村:なるほど。後々後悔をする可能性があるのであれば、行ける今行こうという感じだったのですね。そもそも球団で働きたいという動機は何ですか。
三澤:大学を卒業し一般的な企業で働いていたのですが、どうしてもスポーツに携わりたいという夢が捨てられず、小村さんが運営していたヒューマンアカデミーのスポーツマネジメント講座を受講しました。そこで色々なスポーツを見て行く中で、球団で働きたいという気持ちが益々強くなりました。講座修了後も球団のボランティアスタッフをしたり、実地経験が増えれば増える程、球団職員になりたい気持ちが強くなり先に述べた流れとなります。面接をしたのが26歳で、入社したのが27歳でした。このチームで骨を埋めようという気持ちではなく、2年間経験を積んでステップアップしようという気持ちでした。
小村:二見さんは二年間じっくり育成させてもらったけど、三澤さんの時代はたった3か月でしたからね。修了後も相談に来てくれたり、プレゼンとかもしたね。
三澤:実は小村さんの下を巣立って以降も球団に入るという夢がブレずにいれたのは、小村さんは覚えていらっしゃるかわかりませんが、小村さんの言葉があったからです。当時はスポーツの仕事がしたくてたまらなく、単純にスポーツと名が付けば何でもいいやという時期がありました。小村さんから求人が全体に告知された時に、やりたいですと名乗り出たら、「お前は違うだろう」と諭されたのです。小村さんとワンツーマンで面談をして、私の行きたい道筋を整理し正してくれました。以降、私は何でもではなく球団に入るんだと確信しました。結果的にそこで軌道修正をしてもらったおかげで、小村さんの下を巣立った後もブレることなく球団に入る夢につながりました。
小村:そうだったっけ。多くの教え子にその時を全力で指導しているから誰に何を言ってきたのやら・・・。さて、球団で仕事をするという夢が叶ったわけですが、香川県は三澤さんにとって今まで縁がなかった土地ですね。住むところなど生活面はどうでしたか。
三澤:球団でアパートを借り上げていて、選手の寮がありました。私も格安な家賃で住まわせてもらいました。
小村:都内に比べたら物価安いね。球団では何の仕事をしていたのですか?
三澤:法人営業がメインでしたが何でもやりました。営業は各企業をまわり、主に年間5万円で広告看板を設置できる応援ボードスポンサーの獲得を行っていました。インターネットで会社を調べ電話でアポイントを取り訪問です。幸いなことは「ガイナーズ」という名前を出すとほとんどの会社が会ってくれました。私は東京で広告の営業マンをしていたことがありましたが、アポがとれる確率は数%程度であったという経験がありましたので、電話をすればほぼアポが取れる環境はスムーズでした。球団スタッフは5人程度しかいませんので、試合会場ではジャージを着て荷物運びをしたり運営面の手伝いももちろんしました。チケットのもぎりやチラシ配り、マスコットキャラクターの着ぐるみの中に入ったりもしました(笑) 試合以外でも地元のお祭り参加をしたりと地域交流イベントにも顔を出していました。他にも野球教室に選手を連れていき、カメラマンもやりその様子を球団ホームページにあげたりもしました。
小村:幅広く球団の仕事をしていたのですね。次に二見さんに話を聞いていきたいと思います。監督業と言っても、様々な仕事もされていると思います。
二見:私のバルドラール浦安での役割は下部組織の三軍のテルセーロ監督ですが運営もやっています。練習を見つつ、下部組織の運営、スケジュール運営の全てを取り仕切っています。二軍のセグンドというチームのコーチも兼任しています。
小村:バルドラール浦安に入るまでの経緯を教えてください。
二見:元々は銀行マンとして働いていたのですが、やりたいことが見えてきたことからチャレンジをしようと思い、まずは専門校であるヒューマンアカデミーのスポーツカレッジに入学してトレーナーを目指しました。当時ヒューマンアカデミーの職員をされていた小村さんから、トレーナースキルの勉強だけでなくマネジメントも勉強をした方が良いとアドバイスを受け、小村さんの元でスポーツ全般の知識を学びました。卒業が近づいてきた頃に、バルドラール浦安が新しい下部組織を立ち上げるので手伝ってもらいたいと声をかけてもらったのが入る動機です。最初の2年間は運営まわりとコーチ兼トレーナーとして入りました。3年目にテルセーロの監督を抜擢され3シーズン指揮を執り現在に至ります。
小村:元々トレーナー兼コーチで採用されたにも関わらず、監督に抜擢されたのはどうしてですか?
二見:当時監督をしていた人が辞め、次の監督をチームが探す際に、管理運営面で選手たちのことを最も把握していた私に声がかかったのです。テルセーロは高校生くらいのこれから成長していく若い子たちであり、私が一番やってみたいカテゴリでもありました。そこが監督になったきっかけです。
小村:バルドラール浦安のチームだけでなく幅広く活動をしているよね。
二見:そうですね。現在、千葉県全体のフットサルの普及と育成もやっております。千葉県のフットサル選抜チームの管理をし、2015年はU-23も関わりました。大会に出るだけでなく選手を集め練習を開かねばならないので、その環境の整備などをバルドラールの業務と並行して行っています。これが現在の主な業務内容です。
小村:今年も千葉県選抜を率いて全国選抜フットサル大会関東大会を見事優勝に導きました。おめでとうございます。
■Fリーグと四国アイランドリーグの現状
小村:Fリーグは2006年でスタートし10年ですね。当初は盛り上がりも見せていましたが、現状はどうでしょうか。
二見:どちらかというとフットサルは「見る」人よりも「やる」人が多いと思います。Fリーグが誕生し10年が経ち、1,2年目は勢いがありお客さんもたくさんいたのですが、今はどうかと言うと停滞し落ち着いてしまっている状況です。Fリーグの下には関東リーグ、その下には各都道府県のリーグがあります。都道府県リーグのチームの組織は完全なアマチュアチームであってもNPOが起ち上がったり、会社が応援してくれたりと充実してきています。最初はFリーグも全国リーグと注目され始まりましたが、今はトップチームでなくとも良い環境でプレーができるところが増えてきました。
小村:Fリーグにも名古屋オーシャンズのようなプロチームもあるので、選手は自ずとトップを目指したいのではないのでしょうか。
二見:Fリーグ自体が1チーム(名古屋オーシャンズ)プロはありますが他はアマチュアです。トップの選手も仕事をしながら選手をしている人は多いです。そうすると、トップに上がったから何があるんだと思ってしまう選手がいることも否めない事実が課題です。そこをどう整備し、他のチームとの差別化を図るのかがなかなか厳しい現実でもあります。その面から推測すると、ワールドカップ出場を逃してしまったのも、色々な面での選手のモチベーションに影響を与えているのかなと感じます。
小村:Fリーグも変革をしていかねばならない厳しい状況なのですね。独立リーグの事情はどうでしたか?
三澤:四国では四国アイランドリーグはほとんどの方が知っているのですが、実際に球場に見に行ったことがあるかと言ったら、ない人が多かったです。フットサルとは違って、チームが上に行くとかではなく、固定チームが選手をドラフト指名するスタイルですから、独立リーグの課題はいかにお客さんに見に来てもらえるか、注目してもらえるかでした。
小村:なるほど、リーグ全体としてはそれぞれでの課題点がありますね。詳しく知らない人もいると思うので、チームの話を伺ってもよいでしょうか。
二見:バルドラール浦安というチームには6カテゴリあります。Fリーグに属しているのはプリメーロという1軍チームです。日本代表選手も数名います。2軍のセグンドが関東フットサルリーグ、私が監督を務めている3軍のテルセーロが千葉県のリーグに属しています。もうひとつ下にバセという中学生のチームもあります。千葉県には中学生や高校生のフットサルリーグがないので、スクールから上がってきた子の受け皿的な役目となっています。女子のチームはラス・ボニータスがありほぼ大会では優勝をするほど強いです。最後に耳が不自由な方々のデフフットサルチームのデフィオがあります。監督が手話で指示をしたり、足をドンドンと鳴らして振動で伝えたりしています。ホームグラウンドは浦安体育館で、ディズニーランドと同じ最寄り駅ですが夢の国とは逆側です。通常の体育館よりは広くビジョンがあるのが特徴です。年間ホームゲームは10数試合あります。アリーナ席は選手との距離も近く、臨場感もあり、また選手とハイタッチができたりします。
小村:各カテゴリは年齢制限とか設けているのですか?
二見:特に年齢の制限を設けているわけではないのですが、目安としてセグンドは25歳前後くらいまで、テルセーロはU-18という枠も設け、高校生とそれ以外という感じです。県リーグには大人の方々のチームが多く参加している中、テルセーロは平均年齢16歳くらいの子たちが出場しているという状況です。
小村:普及活動としてはスクール展開がメインだとは思いますが、サッカーとの差別化をどうしていますか。
二見:スクール生は増えてきています。たぶん今までの印象ではサッカーやっていた子がダメでフットサルに転向するというイメージだと思います。昔はサッカー教室しかやっておらず、最初に触れるスポーツがサッカーであったという環境からでした。しかし、最近は私達もフットサル教室やスクール事業を積極的に展開していることもあり、小さい頃からフットサルをやれる環境が整っていますので、サッカーを経験せずにフットサルから始める子も多くなりました。幼稚園にも定期的に赴きフットサル体験会をも行っています。
小村:サッカーの落ちこぼれがフットサルへ転身という時代は昔の話で、今ではフットサルスタートが増えてきているのですね。とは言っても、サッカーを経てフットサルに入る子もまだまだいると思います。サッカー経験者とフットサルを小さい頃から続けてきた選手との差はありますか。
二見:違いはあります。フットサルの子は足元の技術は優れていますが、体が弱かったり、走れなかったり、精神的に弱かったりする子が多く散見します。高校のサッカー部で本気で取り組んできた子は、それなりのキツイ練習を乗り越えてきているケースが多く、体も精神面もタフなため、比率的にトップに早く昇格する子は多いですね。
小村:続いて三澤さんに四国アイランドリーグ、チームの話を聞きましょう。
三澤:私が覚えている範囲で四国アイランドリーグが出来た主旨を話します。野球は小学校・中学校・高校・大学・社会人・プロとしっかりしたレールがあり、大学でプロに行けなかった人は社会人に行くというパターンが王道でした。ところが不況もあり社会人チームが解散する状況下で、その受け皿を作ろうと、元西武ライオンズで活躍された石毛宏典さんが中心となって起ち上げたのが経緯です。同じ独立リーグに北信越のBCリーグというのがあります。四国アイランドリーグは「若者をプロに行かせる」というのが一番の理念ですが、BCリーグの理念は第一に「地域貢献」で、次にプロに行かせることです。そこが異なる点だと記憶しています。
小村:四国はプロに行かせるための受け皿であり、BCリーグは地域貢献という違いがあるのですね。三澤さんが所属されていた香川オリーブガイナーズの話を聞かせてください。地域貢献は二の次だったのですか?
三澤:いえいえ、プロに行かせるということを掲げつつも、「地域の人たちに認めてもらう」地域貢献活動も行っていました。スクールガードという小学校の目の前に立って安全な登下校をサポートしたり、野球教室はもちろんやっていますし、地域の人たちと清掃活動を行ったり運動会に参加したりですね。選手とスタッフとで学校に赴き部活指導をしたり、地域イベントなど年間で200ほどの交流活動を行ってきました。地域に愛されるチームになろうというスローガンを持って活動をしていました。メディア活動としては地域の新聞にはほぼ毎日掲載をしてもらい、全国紙にも取り上げてもらったりもしました。
小村:本拠地になるスタジアムはあるのですか?
三澤:香川県内の小さな地方球場を転々としながら試合をしています。観客動員としては平均1,000人弱くらいです。試合を見せるだけではなく、お客さんを楽しんでいただくために、地元のデザイン系の専門学校とタイアップして缶バッチを作ったり、グラウンド内で子供たちにスピードガンやベースランニング体験イベントをしたりしました。私が勝手に思っていたのは、会いに行けるアイドルではないのですが、会いに行ける野球選手を目指し、身近に感じてもらう取り組みを行っていました。他にはスポンサーのミズノ様に協力いただき、グラブ作り体験や、読売新聞社様に協力をいただき、記者体験なども行っていました。
小村:三澤さんご自身が企画したイベントで思い入れがあるのは何ですか。
三澤:私が初めて企画して採用された婚活シートをつくる出会いイベントを行ったことですね。男女9対9で各回ごとにペアを入れ替え、1回から9回まで9人とお話ができるという企画です。三者凡退してしまうとすぐに終わってしまうのですが、長く続いたら長く話ができるという感じで企画としてはうまくいきました。
小村:色々な野球外でのイベントなども多種行っていたのですね。プロに行かせるというのが理念ですが実際はいかがですか。またプロ選手になるための育成方法などは特別なことはありましたか。
三澤:毎年香川のチームから2,3人はドラフト指名されています。チームでレギュラーとして活躍している選手もいますし、侍ジャパンに選ばれた選手も輩出しています。四国アイランドリーグ全体では今までで70人くらいがドラフト指名されています。もちろん実戦経験を積む場としてのリーグであり技術も磨くわけですが、実は四国アイランドリーグの監督とコーチはほぼ元プロ野球選手です。特に香川のチームの西田真二監督は、選手をスカウトに売り込むのがとても上手であり、他のチームよりも多くのドラフト指名選手を輩出しています。
小村:なるほど。プロチームとの強いネットワークがあるのですね。それは大事ですね。四国アイランドリーグの試合の観戦料はいくらですか。
三澤:当時の話ですが、当日大人一人1,000円です。前売りが800円です。子供がそれぞれ半額です。私がいた時期は年間シートを2,3万円くらいで売っていました。当時、年間ホーム試合が40試合、チャンピオンリーグなどを入れても50試合くらいです。その内、何試合かはスポンサー様や地元自治体の協力のもと、招待試合として無料観戦ができる試合も組んでいましたので、球団の収入は、チケット収入より、スポンサー収入の割合のほうが多かったです。
小村:スポンサー収入が多いということですね。これは四国の企業が多いのですか。
三澤:そうですね。地元香川の企業が多く、四国以外の企業でも企業の理念に共感いただき、協賛いただいていた企業もありました。
小村:前半はFリーグと四国アイランドリーグの現状を自身が所属しているチームをベースにお聞きしてきました。後半は課題と展望をお聞きしていきたいと思います。
<後編に続く⇒[こちら]>
◆プロフィール◆
二見一輝(ふたみ・かずき)
Fリーグ バルドラール浦安 テルセーロ監督/千葉県フットサル連盟技術部選抜チーム担当/千葉県フル選抜U-23選抜監督。銀行マンを脱サラし、トレーナーの専門校に入り小村に師事。卒業後、Fリーグ バルドラール浦安に入る。トレーナーや運営、育成企画、監督だけでなく、フットサル業界の若手育成に手腕を振るう。2016千葉県選抜の監督として第32回全国選抜フットサル大会関東大会優勝(全国大会出場権獲得)。小村さんから学んだことは、「人とのつながりを大事にすること」「視野を広く持つこと」。
◆プロフィール◆
三澤敏(みさわ・さとし)
四国アイランドリーグ 香川オリーブガイナーズ元フロント。大学卒業後、IT企業に就職し、在職中の2008年からスポーツマネジメントの勉強を始め小村に師事。2011年5月から、香川オリーブガイナーズ球団に転職。約2年間フロントスタッフとして勤務の後、球団を退職し、2013年4月よりIT企業に復帰し現在に至る。
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