2016/09/26 『仕掛け人に聞く、スポーツ産業で求められる人材像と自分自身の仕掛け方・考え方』 公開パネルディスカッション(前編)

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■登壇者プロフィール

江口智也氏
株式会社ランドガレージ取締役。浦和レッズのスポンサー営業からプロモーション企画、現役選手を起用した広告撮影やサッカー教室運営などを担当。W杯ツアーやアジアツアーにスタッフとして帯同。南アフリカW杯では国内パブリックビューイングの開催運営に携わった。浦和レッズ他、バレーボールの上尾メディックスなどの企画も手掛けている。

小杉卓正氏
パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部 宣伝部 スポンサーシップイベント推進室 オリンピック・パラリンピック課 課長。2001年パナソニック入社。社会人野球選手を経て、2008年よりオリンピック・パラリンピック担当となる。

菊池教泰氏
『自分づくりの仕掛け人』認知科学に基づく、こころの教育家:株式会社デクブリール代表取締役。小学1年から柔道を始める。中学時代は全国大会どころか地方大会1回戦負けだったが、脳と心の働きを学んだことにより、中央大学で日本一、全国制覇を達成。現在は認知科学に基づくコーチングをベースとした研修、講演、コンサルティングを企業、スポーツ選手・指導者、教員等を対象として行っており、「こころの教育者」として活動。2015年12月『超一流アスリートのマインドを身につけて あなたのゴールを達成する』を刊行。

小村大樹氏
法政大学卒業後、草創期のスポーツメンタルトレーナーとしてプロ野球選手、オリンピック選手、格闘家、Jリーガーなど多くのアスリートをサポート。ビジネススキルのアウトソーシング会社を経て、2006年より総合学園ヒューマンアカデミーに入社し、主にスポーツ関連の企画・運営・交渉・渉外・指導にあたる。同時に10年前よりスポーツマネジメント講座を開講し、多くのスポーツ業界への就職希望者を橋渡ししてきた。日本初のスポーツ就職エージェントとして、2015年NPO法人スポーツ業界おしごとラボを設立し理事長。年間80回を超すプロフェッショナルの人たちを招聘し交流座談会を展開する「すごトーク」を仕掛け、すごラボから「スポーツを支える」人材教育・輩出の仲介人として尽力している。

■仕掛け人になるまで

小村:まずご自身のことからお聞きしていきたいと思います。江口さんから、そもそもランドガレージ社に入社した動機や、どのような経緯で入られたのか教えていただけますか。

江口:私は埼玉県浦和育ちです。きっかけは毎週土曜日に河原で小さい頃から友人とサッカーをしていました。そこにランドガレージの社長が来ていまして、日頃、サッカーを一緒にやっていた仲でした。ちょうど就職活動をしている時に、その社長から好きなことを仕事すると人生が楽しくなるよと言われました。内定が何社かあったのですがそれを全て断り、好きなサッカーを仕事にしたいという気持ちで、ランドガレージに入社しました。今年で入社13年目です。

小村:社長とのご縁があって入社されたのですね。次に小杉さんにお聞きします。小杉さんは社会人野球からパナソニックに入られたと思うのですが、パナソニックにも色々な事業部がある中でオリンピック・パラリンピック課に配属された経緯はどうだったのでしょうか。

小杉:パナソニックの社会人野球選手として入社し、デバイス社 購買課に配属されました。そこで業務をしながら4年間野球をやっていました。私はプロ野球選手になるつもりでしたが、最後の年は自分のパフォーマンスを全然出せない日々が続き、戦力外通告を受けました。野球部を辞める時に、「私はスポーツで入社したのだから、スポーツビジネスに携わりたいと伝えました」。その時の反応は、「英語もしゃべれなければ、社会人としてのイロハも知らない。そんな状態で希望の仕事はできないだろう」と言われました。そこで、配属していた仕事を継続することになったのですが、365日野球をやってきた時間が全部空いてしまいました。要するに、土日の遊び方も知らないわけです。そこで、英語の勉強に時間を費やし、スポーツビジネスに携わる方々とコミュニケーションをとる時間に充てました。

小村:スポーツ選手のセカンドキャリアの苦悩ですね。

小杉:私にとってラッキーだったのが、当時の上司がガンバ大阪の前身 松下電器サッカー部のフォワードで活躍していた方だったのです。Jリーグが発足しガンバ大阪になるというタイミングで会社に残る決断をされた方でした。その上司は私がスポーツ方面に進みたいという気持ちを理解してくれ、私が行っていた英語の勉強などの活動を見守ってくれました。お蔭で、英語の点数も上がり仕事でも結果が出せて、「小杉が野球を辞めて頑張っているらしいぞ」というのが社内に伝わり、オリンピック・パラリンピック課への配属になったそうです。

小村:4年間は野球選手として活動し、もう4年間は仕事をしながらスポーツ方面への仕事のアピールをされ、オリンピック・パラリンピック課への配属を掴み取ったのですね。続きまして、菊池さん。柔道日本一になられ実業団選手として活動されました。それを引退し、なぜ現在、認知科学に基づくコーチングの教育者になられたのでしょうか。

菊池:私は中央大学で日本一となった後、柔道家として五輪金メダリストを輩出している有名実業団に選手として入りました。そこでは、柔道半分仕事半分という生活を送っていました。そこで私が最初に配属された部署が人事部でした。私の性格に合い面白い部署でした。柔道は正直芽が出なく、柔道に対する考え方も合わなかったため引退しましたが、そのまま会社に残ることもできた。しかし、私は残らない選択をとりました。そして、人事を極めて行こうと思い、人事のスペシャリストになる第一歩として給与計算ができなければいけないと考えました。スポーツの体育会系が絶対に行かないであろう給与計算をマスターするために、社会保険の知識、税金の知識が必要となるので、通信教育で学んだりしました。また社労士の勉強をしながら、転職先の会社を見つけて入社しました。その会社は他の会社の給与計算をする会社でした。このような大きな体で給与計算の仕事ができるというのに、いつも驚かれました(笑)

小村:よく球団やスポーツ会社から求人をいただく際に多い部署が経理系だったり数字を使う部署です。スポーツ選手が引退後に最も就かないポジションに、菊池さんは興味を抱いてしまった珍しいキャリアですね。

菊池:私の中で柔道とは全く異なる関係ない分野で勝負したいという思いがあったのです。その後は給与計算のエキスパートから人事全般もこなし、数社の人事部を渡り歩きました。給与計算を含む人事の仕事は面白いのですが、何か物足りず、柔道家としての現役時代の輝きに比べて負けているなと感じたのです。そこで何かないだろうかと探しているときに、現在やっている認知科学に基づくコーチングに出会ったのです。「これだ!」と思い勉強をしながら今までの人生を振り返ってみると、なぜ自分が大学時代、柔道で日本一になることができたのか、そしてなぜ実業団ではうまくいかなかったのかということが明確にわかったのです。そのような経験を自分だけでなく、他の方にも伝える仕事がしたいと思い、今につながっています。

 

■仕掛け人が欲しい人材像

小村:本日のテーマでもあるスポーツ産業で求められる人材像ということですので、一緒に仕事をしたい人、欲しい人材像をそれぞれお聞きしていきたいと思います。

江口:現在ランドガレージ社には十数名が働いています。私は35歳ですが、20代半ばから30歳前半が多い職場です。皆それぞれ何か個性を持っています。例えば動画編集が得意とか、英語が得意とか、ITのスキルがあるなどです。そのように何か特技を持っている人がいると、そこの部分で頼りになります。スポーツ以外で何か特技を持っている人材が有難いですね。

小村:採用面接もやられていらっしゃるそうですが、この子が欲しいというところも何か長けた能力を表現できている子が採用されるポイントでしょうか。

江口:もちろん社会経験や通常業務のスキルが足りない箇所もあると思うのですが、何か飛び抜けたものを持っている子であれば、職場で何か活用できるかなと思い描きながら面接しています。

小村:熱いハートだけではなかなか入れませんか?

江口:熱いハートは大前提です(笑)

小村:ランドガレージ社では熱いハートにプラスアルファ何か能力がある人ということですね。小杉さんは採用に関われているのですか?

小杉:直接、採用に関わることはないです。個人的には、スポーツビジネスへの採用にはビジネス経験があった方が良いと思います。ポイントは3つあります。1つは江口さんと同じでパッション(情熱)を持っていることがベースです。2つ目はビジネス感覚を持っていること。なぜ、この仕事をやっているのというビジネス面を語れないといけないですよね。スポーツを通して社会貢献するというのは大前提なのですが、ではパナソニックにとって何に貢献してくれるの? これを語れないと好きだけでやっていけません。例えば、あまたあるスポーツビジネスの中で、オリンピックなのか? なぜ、ワールドカップではないのか? なぜ、レッズではないのか? ここをしっかり語れないといけません。

小村:なるほど。最後の3つ目は?

小杉:最後の3つ目は「調整能力」です。私の場合、国際オリンピック委員会に加えて、日本では、東京2020大会組織委員会、JOCとの調整があるということ。もうひとつ、パナソニックにもいろんな部署があり、社内の方々に「オリンピック」の権利を使ってもらわなければいけません。「オリンピックの権利は良いですよ」という話だけでなく、「こうやって権利を使ったら効果がありませんか?」という調整が必要になってきます。ビジネスマン全員そうかもしれませんが、いろんな思いを持っている人が一緒に仕事をする中での調整能力、コミュニケーション能力は必要です。それを動かせる最後の砦がパッションになってきます。この3つを求められますね。

小村:やはり外側の企業とも交渉するし、内部の方々にも伝えていかねばならないので、プレゼン力、交渉力、コミュニケーション力が大切なのですね。

小杉:そうですね。弊社であれば、世界遺産やネイマールへの支援などしており、そこにも、いろんな権利があります。その中で、いかにオリンピックを使ってもらうのか。例えば、オリンピックとネイマールを掛け合わせて発信するなどの調整が重要です。

小村:内部調整が一番大変そうですね。そこにパッションですね(笑)

小杉:最終的に人を動かすのはパッションですからね。論理詰めで貢献しますと言っても、「いや、スポンサーをやるよりも他のことに投資しよう」と言われることもあります。そういう時には、パッションがないと通せないです。

小村:その熱い思いパッションは菊池さんの専門分野ですね。ただ単に熱い思いだけではダメで、そこに対してどういうパッションが必要なのでしょうか?

菊池:やはり内側からの動機付けは非常に重要です。まず認知科学とはどういうことであるのか、皆さんご存知ない方も多いと思いますので、その説明をします。けっこう脳科学と勘違いされてしまうのですが、脳科学は小脳がこういう働きをしてという部位の話しなのですが、認知科学はその名の通り認知すること。この物を認知する。例えば、このマイクは「マイクだ」と認知するからマイクとして扱います。認知した結果が人生にどういう風に影響を及ぼしていくのかという分野なのです。同じものを見ていても、人によって認知していることが違います。一人の人間でも状況や環境によって認知が変化します。そのような専門分野です。この認知科学に基づくと、「want to」『したい』という気持ち、それから「have to」『しなければならない』というのがあります。これはいったい「したいこと」なのか「しなければならないこと」なのか、これは大きな違いがあります。「しなければならないこと」を皆さんはしなくてもよいと言われたらやりますでしょうか。掃除しなければいけない、洗濯しなければいけないとか、仕事しなければいけない。それをしなくてよいと言われたら果たしてするか。じゃあ、しないとした場合、いわばそれは人から押し付けられているのですかということ。自分で責任をとっていないんですね。「want to」『したい』、そして『選ぶ』、『好む』。自分が好きなんだという内側から発すること。これを常に自分で問い続けることが重要です。

小村:「want to」だからこそパッションが出るんですよね。菊池さんは多くの企業で教育研修の講師をされていますが、企業で求められている人物像は何であるとお考えですか?

菊池:東証一部上場企業等でも管理職研修をしていますが、今求められるのは2つの「ジリツ」です。自分が立つ「自立」と、自分を律する「自律」です。自分で物事を考えて、自分で行動し、自分で責任を追っていく人が求められています。高度経済成長期の日本であれば右向け右で同じような教育を受けた人材で良かったのですが、今まさしくダイバシティーという言葉が示している通り、社会の中で多様化していかなければいけない。なぜかというと、例えば動物はある一定の温度を超えてしまうと生物として全滅してしまいます。その中でも色々な人間がいるから適応して生き残ることができる。多様化の時代だからこそ「ジリツ」を重要視しているのです。

小村:2つの「ジリツ」は大切ですね。

菊池:ここで日本の教育の難しさがあって、日本の教育はひとつの答えがあることしか教わらない。論文を書くには仮説を立てて検証してフィードバックを得ながら修正を加えていく。このサイクルを回せる人が求められています。今、平社員でも、例え新入社員であっても、グローバルリーダーを目指して自分はそうなんだと思っている人間と、目の前のことをただこなしている人間では、認知は明らかに違ってきます。見えるものが変わってくるのです。そういった人材が今求められています。小杉さんの話を聞いても、どこを見ているのかという視点が重要なのかなと思います。

■仕掛け人の企画力

小村:色々な斬新な企画を考えて世に出されていますが、その企画力はどのように身に付けられたのでしょうか?
どのようにアイデア出しをされているのか江口さんからお聞かせください。

江口:ヒアリングのところですね。お客さんがどういう課題を持ち、どういう風にしたいのかという相談から始まります。もちろん、自分が課題を見つけて提案することもありますが、どちらかと言うと、ヒアリングを非常に大事にしています。自分が持っている意見をそのまま押し通すのではただの自己満足になってしまうので、お客さんに喜ばれる施策はどういうものなのかを探ります。更に私の仕事ですと浦和レッズがどう考えるか、ファンはどう見るかという視点も大事です。加えてポスターや動画を作る時にクリエイティブが大事ですので、いわゆる第一線でやっているプロデザイナーやカメラマンなど、そのような人たちの意見を尊重しながら、自分がやりたいことも含めて、全体的なあらゆる視点から考えています。一本の筋を通す企画というのは、キャッチ―のような前提があって、そこに皆がついてくるような推進力が必要です。企画ひとつ考えるよりもあらゆる視点から考えなければなりません。そのような場数を踏むことが大切ですね。

小村:百聞一見にしかずではないですが、場数を踏むことで様々な視点の考えも見えてきて、自分の考えも乗せてまとめていくという力が必要だということですね。そういう意味で常に意識していることはあるのですか?

江口:話しを聞かれやすかったり、自分から話にいったりと、お客さんのところに答えがあったりします。お客さんとのコミュニケーションをとることを意識することで、引き出す能力を知らぬうちに身に付けていました。

小村:自分が行動を起こして積極的にお客さんに会いに行くことで、その話す場にヒントがあるということですね。

江口:まさにその通りです。

小村:同じような質問を小杉さんにもお答えいただきたく思います。小杉さん流のアイデア出しの手法はあるのでしょうか。

小杉:江口さんと似ているのですが、一番は何をしたいのかという企画コンセプトが合えば、後はおのずと、いろんな人がいろんな意見を持ってきてくれます。1から10まで自分の企画を通せば、100点まではもらえます。但し、100点までしかもらえません。でも、今こういう企画をやりたい、ここが強み、そして、仲間の意見、この三点を押さえれば、別のプロ集団に預けることができます。クリエイティブのプロから意見を聞くとか、PRのプロに意見を聞くとかですね。ディスカッションの中で生まれてきたものは、当初の想定していた100点が300点くらいの結果になったりします。コンセプトをブラさないこと、強みをしっかり押さえておくこと、後は多少自分の意見を変えられても良いと考えること、そうすることで、思わぬ掛け算になることもあるのです。

小村:様々なプロ集団の方に投げることが掛け算になっていく。

小杉:ディスカッションの中で良いものを拾っていくということですね。

菊池:江口さんと小杉さんの二人の共通点を聞いて、まさに「抽象度の高さ」が高いと思いました。抽象度とは物事の視点の高さのことです。今ここは代官山です。代官山の抽象度を上げていくと、東京。代官山は東京に入っています。更に上げていくと関東、更に上げれば日本、更に上げるとアジア、そして世界と、抽象的になっていくのです。日本の教育の難しいところは具体性を持つことが正しいと教えるところです。抽象的に上げていくのが苦手な傾向にあります。これはものすごく重要なことで、色々な様々な方々とお仕事をする中で、抽象化能力は大切なことなのです。

小村:視点を上げて考える重要性ですね。上から見たら広く物事が見えることですね。

菊池:木も見て森も見て森林も見て、だけど木の葉っぱも見ることですね。上に下にと行ったり来たりする。上げっぱなしでもダメなんです。リーダーは現場の細かい観点はわからなくても良いという考えもあるかもしれませんが、一応、そこも押さえておきながら、両方を行ったり来たりすることが大事なのだと思います。

小村:なるほど。俯瞰の視点、高いところから見下ろす目を持ち、全体を客観的に見ることも大事ですが、現場レベルにズームインする目も大事ということですね。

菊池:そしてもうひとつ、LUB(リースト・アッパー・バウンド)をとるという表現をしますが、最小公倍数のことです。例えば牛好きと馬好きがいました。その二人が、「牛のほうがよい」「いや馬の方がよい」とケンカをしていたとします。片方は牛、片方は馬、これは同じ抽象度です。ところが、馬も牛もどちらも動物なのです。同じ動物だという観点で話をするとケンカにならずに上手くいくのです。これが企業でいうところのミッションだったりします。色々な人たちの共通項がミッションやビジョンになります。この部分をとっていく。これを我々は「LUBをとる」と言います。共通項を見出してそこにアプローチしていく。頭が良い子は抽象化能力が高いと言われています。物理を勉強していても、数学とリンクしていたり、様々なことに波及するからです。だから全て具体性が違うだけで、同じところを押さえているから、全てが一緒に考えられるのです。色々な経験をすることで、あの人はこう思うだろうから、と考えることができるようになってきます。広報側はこう思うし、経理側はこう思うし、いろんな視点が入ってくる。こういったものをひとつにまとめて、ここを押さえておけば全部にリンクするなと考えられるのです。江口さんと小杉さんの話を聞いて抽象化能力とLUBを取ることが重要だなと感じました。

小村:ただ面白い企画を考えるだけではなく、その企画を実行に移し、成果を挙げなければなりません。そのためにも、菊池さんがおっしゃる最小公倍数的な調整力が仕掛け人には重要な能力ということですね。

<[後編]へ続く>

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