2016/05/01 第1回 安達元気氏(元レーシングドライバー)『モータースポーツの裏側』(前編)

理事長の小村をホスト役とした企画・「対談すごトーク」。第1回目となるゲストは、元レーシングドライバーの安達元気(あだち・まさき)さんです。

 

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■「選手としての心構え」

小村:本日のゲストは元レーシングドライバーの安達元気さんです。安達さんのお兄さんである安達岳夫さんは実は私の教え子でして、NPO法人スポーツ業界おしごとラボ(すごラボ)のお手伝いをしていただいています。今回はそのご縁もあり弟さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。さて、いきなりですが、モータースポーツの魅力を教えてください。

安達:乗る側からすると、スピードと車をコントロールできる制圧感、自分の思い描いていた通りに動かせた時の快感、車が自分の手足になった時の感覚、自分の前に誰もいなくなった時は最高ですね。応援する側としては五感で感じられることが醍醐味です。爆音やタイヤが焦げた臭い、体に響く振動には感動があります。サーキットに来てもらわないと味わえない魅力です。

小村:よくレーサーは車に乗っているのに体力いるの? とか言われると思うのですが、とても体力を使うと聞いたことがあります。

安達:使います。コーナーリングの時の遠心力など、Gがかかる時は呼吸ができません。インターバル走を繰り返している状況と考えるとイメージしやすいですね。トレーニングは自己流がほとんどで、持久力と体幹トレーニングを特に強化していました。あとは、Gに耐える筋力づくり。ヘルメットも重い上、Gが首にかかるので首の筋肉や、レーシングカーはハンドル直タイヤなので、ハンドルを握る腕の筋肉も強くしなければなりません。

小村:体力も必要ですが、メンタルも強くなければなりませんよね。ひとつの判断ミスで大事故や命を落とす人もいます。安達さんにとっての死生観はどのようにお考えだったのですか?

安達:「レースで死ねたら本望だ」と思って乗っていました。死生観というよりも人生観ですが、小さい頃から車が好きでレーサーになりたく、高校の進路相談でも、いろんな人からレーサーは危険だと言われてきましたが、「やりたいことはこれしかない」と思って。それで死んでしまったら、悲しむ人もいるけど、本望かなと。

小村:レース中の恐怖心はなかったのですか?

安達:もちろんありました。恐怖心がなければ、危ないので辞めた方がいい。ただ、恐怖心があるせいで雨の日のコーナーリングでは行けないドライバーがいます。そこで、いかに強い気持ちを持って行けるかどうか。僕はその気持ちは強かったと思います。「怖い」という言葉を出したら、レーサーやれません。ですから、現役中はお清めや願掛けなどもしなかったです。常に自分を信じ、「全ての結果は自分の努力の結果」と思っていました。だからレースに自信を持って臨めるよう、事前の活動を充実させていました。

小村:素晴らしいプロ意識ですね。

安達:個人的に感じたことは、レースは格闘技と似ています。一回の判断ミスで、死が目の前にある。ミリ単位の調整をしながら集中する。持久力を持ちながら細かい作業をしなければならない。刻一刻とライバルや路面の状況、車の調子も変わる中で、走りながら戦略を練ります。こいつに負けない、先にブレーキを踏まないという熱いスピリットを持ちながらですね。でもレース中は意外に頭の中は冷静で戦略を考えていました。熱い部分と冷たい部分をバランスよく持つことを意識していました。

小村:レーシングドライバーは華やかであるように見えますが、マネジメントやお金の部分はどうでしたか?

安達:とにかく、活動資金がとてもかかります。すべて当時一般的に言われていた情報ですが、FJ-1600を1シリーズ出ると最低でも160万円から200万円かかる。ほとんどの人が2シリーズ出るため、300万円から400万円かかる。F4は600万円から800万円くらい。F3はチームにもよりますが、5000万円から6000万円かかります。また、さらにマシンを改良したり、練習時間を増加させたいというのが切実ですのでさらに増額することもあります。この金額を、ドライバーが一人で用意するのはとても難しいです。

小村:この金額はドライバーが負担をしているのですか?

安達:色々な契約がありますが、私の場合、車はチームが所有しており、契約であなたを優先的に使用させますという形でした。そのため、使用料をドライバーが払っていくという形です。メンテナンスやエンジン、オーバーホール、タイヤなども、原状復帰するための資金を払っていく形でした。もちろん保険もないので、クラッシュしたら大変なのです。また、サーキットでは自己責任なので、事故はぶつけられようがハーフ&ハーフなので、自分の車は自分で直すのです。自分の車に責任を持ち、例え被害を受けたとしてもしょうがないという暗黙の協定がありました。ちなみに、私のカテゴリでは賞金も数十万円くらいでしたから勝っても赤字です。そういう世界です。

小村:そうなのですか。車メーカーからお金をもらうとかではないのですね。

安達:もちろん、スカラシップをとってメーカーからサポートしてもらっているドライバーもいますが、日本のレーシングドライバーでお金をもらって乗っている人は一握りしかいないです。お金を払わずに乗っている人、例えばメーカーがサポート、大きなスポンサー、ご両親がサポート、そういう人もかなり少ないです。たいていはみんな、チームと契約して今年、この車をあなたに貸します。ただ、この日走るメンテナンスをチームが担当するので一日いくらください。タイヤ代をあわせるといくらです。と、ドライバーがお金を支払います。普通に考えると、20歳の若者が年間400万円のお金をレースで使える状況でないとできないのですよね。なかなか自分でバイトや働いてレースに出るのは難しく、自分一人ではどうしようもない世界です。FJ-1600までは私もアルバイト2つを掛け持ちしやっていたのですが、上に行くとお金がかかりできないので、いろいろ手を考えました。私は小学生からゴーカートでキャリアを積んだとかエリート街道ではなかったので、恵まれない環境でどう資金繰りするかも重要でした。

 

■「味方を増やすための努力」

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小村:安達さんは自らの資金繰りをどのように克服されていたのですか?

安達:私はレーサーでありながら営業マンでなければならないと思って活動していました。当然自分一人では、トレーニングしてサーキットを走り、練習して、営業もしてはなかなかできないので、そういったことを手伝ってくれる仲間や、純粋にお金を支援してくれるスポンサー様、個人の仲間、応援してくれるファン。自分の環境を理解してくれてサポートしてくれる人をいかに増やせるかが大切でした。

小村:具体的にどのように課題を克服されていったのですか?

安達:ひとつは自分をマネジメントしてくれる仲間ができたことが幸運でした。兄の友人にマネージャーのように支援して頂きました。具体的には後援会を組織・運営していただき、営業の企画書を一緒に考え、スポンサーの依頼まで同行していただいたりしました。個人サポーターから年会費のサポートをしてもらい、メルマガを配信したり、グッズをつくったり、イベントやレースの観戦ツアーをしてくれました。

小村:頼もしい仲間ですね。仲間作りで意識されていたことはありましたか?

安達:味方を増やすためには、選手として魅力がないと味方もしてくれないと思うのですよね。自分は商品、その選手に価値がどれだけあるかというのが、企業や個人がお金を出すことにつながります。自分は商品として常に見られている、そのためにどういう行動をするべきか、どういう風にレースに取り組むべきか、どういう風にファンと接するべきか。そういうことを常に気を付けていました。結果、エリートでもなく、メーカーからのサポートもなく、実績からしたら大した選手でもなく、常に崖っぷちの状況でしたが、デビューしてから8年間多くの方々に支えられてきました。自分にとって有利なものが何一つない状況で、その中で自分ができるベストのパフォーマンスや、できることを全てやろうという気持ちでやってきました。そうすると、たくさんの人が「頑張ってるね、お前がそこまで熱い気持ちでやっているなら、もう少しサポートしてあげるよ」と言われるようになってきました。アルバイト先の社長さんも会社をあげてサポートしてくれました。周囲の人が本当に助けてくれたことに感謝です。皆さんの支えなしではレーサーとしての活動ができませんでした。

小村:ハートでつながるところですね。安達さんがステキなところは、レーサーになってしまってから動いていた点ですね。例えば、レーサーにまだなっていなくて「レーサーになりたいから協力してください」では、たぶん誰も動いてくれないと思うのですよ。もう身を投じてしまっていて、応援してくださいって活動している。第一としては、もうその環境にいる中で行動しているところですね。その環境にいてもがきながら、次に何をクリアしなければならないのか、自分でちゃんとプロデュースして考えて、足りない部分をどうすればいいのかと行動しているのがすごいところですね。

安達:マネジメントをサポートしてくれるメンバーからも、振る舞いや周りに対しての見せ方などもアドバイスをもらい、みんなでこうやっていこうと常に議論してきました。レーシングドライバーは個人スポーツと思われがちですが、チーム、エンジニアがいて、みんながベストを尽くさないと勝てないのです。マネジメントに関しても一人じゃ全然できないので、それをサポートしてくれる人がたくさんいる。こういう人たちの思いを全て乗せて、たまたま車に乗っているのが私で、結果を出すのが私っていうだけなので、周りの人の力なくしては何もできなかったです。奇跡的な話ですが、マネジメントをサポートしてくれる人たちもみんな無償で気持ちだけでやっていただけました。

小村:人が人のために動くときは、手っ取り早くはお金ですが、そうではない状況で動くときは、相当ハートとハートがつながっているときです。自分の利益ではなく、動いてくれたというのはそれだけの魅力があるということですよね。

安達:レースの結果は正直、思い描いていた実績ではないのですが、普通、他人のために動いてくれるというのは、誰もができる経験ではないので、それができたというのは自信にもなりましたし、それは自分がやってきた活動の成果かなと思いました。ただ、たまに「誰のためにやっているか」と迷う時もありました。みなさんは僕の神輿に乗ってくれているという感じなので、「こうやってしまったらみんな悲しむのではないか」「意見にそぐわないか」「正しい選択をしないと非難されてしまうのではないか」とけっこう迷うこともありました。最終的には自分がどうしたいのか、自分がどこに行きたいのか、これは絶対に崩してはいけないことです。途中で迷いもありましたが、そこは勘違いせずにやっていかねばならないと思いました。

(⇒後編へ続く)
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安達元気(あだち・まさき)
1983年3月10日、新潟県生まれ。幼稚園から車が好きで、将来の夢はレーサー。18歳で高校を卒業後、すぐに免許も持たない中で、レーシングチームのオーディションを受け、練習生となる。2003年にFJ-1600デビュー。2004年 FJ-1600日本一決定戦で史上初の前人未到28台抜きを達成し、2004年度優秀ドライバー賞受賞。2005年度F-4日本シリーズ参戦(6戦中5回入賞)。2006年度F-4シリーズ参戦(4戦中2位3回)、F-4日本一決定戦3位。2007年度フォーミュラトヨタにスポット参戦。2008年度スーパー耐久シリーズ ST-4クラス参戦。2011年より株式会社ブリヂストンのテストドライバー。

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